Monthly Guideでは、毎月注目のプログラムを紹介。
編集チームがピックアップした各プログラムの魅力を、インタビューや取材レポートなど多彩な内容でお届けします。

目次
7月号

東京の玄関口、東京駅丸の内に建つ丸の内ビルディングと新丸の内ビルディング。並んだ2つのビルの壁面、巨大なグラスウォールに巨大な壁画、その名も東京大壁画が今夏表出する。今回このプロジェクトの企画運営を行う株式会社ドリル(細川直哉さんをはじめとする4名)と協力を行う株式会社アタマトテ・インターナショナルの榎本了壱さんに作品に込めた想いを伺った。

丸ビル・新丸ビル制作風景

ふたつでひとつの大きな世界観


「ふたつの壁面を合わせると約7500㎡を超える大きさになります。日本の文化・芸術のすばらしさを世界に向けて発信し、何十年後でも“あぁ、あれはすごかったな”と思い出してもらえるようなシンボリックなメッセージを込めたかったというのが企画の出発点でした。この大きさのパブリックアートの壁画はこれまでにない世界最大級のものだと思います」(細川さん)
このチャレンジに賛同して作品制作を担当したのが横尾忠則、横尾美美の両氏だ。
「対になっているということで、作品同士の対話だったり、ふたつでひとつの世界を構築するような関係性がうまれて、もっと大きな物語が表現できるというコンセプトに両氏に賛同いただき、さまざまなディスカッションを通して、“火”と“水”というテーマが決まりました」(榎本さん)

株式会社ドリル
エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター
細川直哉さん

株式会社アタマトテ・インターナショナル
代表 榎本了壱さん

祝祭的なモニュメント以上の意味が作品に込められている


企画コンセプトは「宇宙 COSMO POWER」。

「グラフィックデザイナー、イラストレーターそして画家として常にジャンルの草分けとしておおきなうねりをもったアーティスト活動を展開してきた作家・横尾忠則氏は、アートに対するとても深く強い想いをお持ちです。日常的なものから神話的世界、精神世界までその表現領域も深化されています。根源的なエネルギーをとらえようという欲求の氏とそれに果敢に挑む横尾美美氏。今回、アートの力の象徴という祝祭的なモニュメント以上の意味のある作品が生まれたというのが、一番の獲得点ではなかったかと思います」(榎本さん)
「制作過程のディスカッションが、すでにレジェンドでしたね(笑)“計算しすぎちゃダメなんだ”など、横尾忠則氏の発言ひとつひとつが金言です。プロセスそのものが、すでに作品の一部でもあるんだと思いますね」(細川さん)

横尾美美氏作品(一部)
テーマ “火(ignis)”

横尾忠則氏作品(一部)
テーマ “水(aqua)”

見どころ


“水(aqua)”をテーマにした横尾忠則氏。“火(ignis)”をテーマにした横尾美美氏。両氏の作品が巨大な双璧となって掲出される。
「ずっと向き合ってこられた滝をモチーフに、膨大な古今東西のコレクションのうち2000枚を超えるポストカードから構成されたのが“水”です。流れ落ちる水の迫力に対して、天高く上昇していく“火”。ふたつは生命の循環のような相関関係になっています。また、それぞれに細部はとても緻密に描かれています。ぜひ双眼鏡などを使ったりして、遠くから鑑賞したり、近づいて見たりという探索を楽しんでほしいですね」(榎本さん)
「2021年のオリンピック・パラリンピックの時期に公開される今回の作品ですが、新型コロナウイルスで世の中の価値観や見方はいろいろ変化しました。でもこの作品から発信される強いメッセージは普遍的なものだと思います。横尾忠則さん、横尾美美さんでなければ、この壁画は完成しなかったのではないかとさえ思います。時代が変わっても残るアートの力をぜひ感じてほしいですね」(細川さん)

(O)

プログラム

東京駅の目の前、丸の内ビルディングと新丸の内ビルディングの壁面が今夏巨大なキャンバスになります。横尾忠則、横尾美美の両アーティストによる生命賛歌「東京大壁画」。期間限定公開です。
実施期間:2021年7月17日(土)~2021年9月5日(日)
入場料:無料
実施場所:丸の内ビルディング
(東京都千代田区丸の内2丁目4−1)
新丸の内ビルディング(東京都千代田区丸の内1丁目5−1)

横尾忠則
1936年兵庫県生まれ。美術家。72年にニューヨーク近代美術館で個展。その後もパリ、ヴェネツィア、サンパウロ、など各国のビエンナーレに出品し、パリのカルティエ財団現代美術館など各国の美術館で個展を開催。15年高松宮殿下記念世界文化賞、令和2年度東京都名誉都民顕彰。7月17日より東京都現代美術館での大規模な個展が開催される。

横尾美美
画家。1994年「Tadanori&MimiYOKOO」展で展覧会デビュー。
1995年個展開催から、東京を中心に、全国各地で開催。
2000年 PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE MILLENNIUM、Spring Summer2000 を担当。最近ではme ISSEY MIYAKE “MIMI YOKOO”の第一弾(2017年)から第三弾(2020年)までコラボレーションを展開。

一番左 榎本了壱さん、
二番目から 株式会社ドリル 江成修さん、伊吹圭策さん、細川直哉さん、西田淳さん

株式会社ドリル エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター 細川直哉さん

今回のプロジェクトを通して、アートって本当にすごいなと実感しました。アートは人間性の追求だと思いますが、本当のアートの力を見せてもらった気がします。世の中の見方がたとえどれだけ変わっても、それを超えるようなメッセージを発することができるんです。

株式会社ドリル エグゼクティブ・プロデューサー 江成修さん

カウパレード東京や丸の内ストリートミュージアム、大阪アートスクランブル、大阪ミラノデザインリンクなど様々なパブリックアートイベントを手がけてきました。街中で突然アートに出会った時の言語化できない感情のゆらぎみたいなものを一人でも多くの人に体験してもらいたいと思っています。

株式会社ドリル コンテンツ・プランナー 西田淳さん

固定化し閉塞感を作り出す社会のライン、顕在化し高くなっていく人々の分断のライン、無意識的に行動を萎縮させる個人のライン。
アートを作る力と見る力は、これら様々なレイヤーでの「境界線」に対する気づきと、それを乗り越えるパワーを与える。
アートはこれからますます必要になると思う。

株式会社ドリル テクニカル・プロデューサー 伊吹圭策さん

アートはその時代時代において、科学や社会そして人間自身を前進させる発想の源になってきたのだと思っています。この厳しい時代においても、その役割は変わらず、むしろ最も必要な感覚なのかもしれません。テクノロジーが発達し、誰もが「アート的」感覚をアウトプットできる現代、あらためて「アートの力」を未来を担う人々が体感し、刺激を受け、より豊かでオリジナリティ溢れる発想が無数に生まれ出ることを願っています。

アタマトテ・インターナショナル 代表 榎本了壱さん

アートマーケットにこだわりすぎると、戦略的な表現が優先しかねない。本来アートが発する強いメッセージが希薄になる懸念があります。横尾忠則さんは、そうした作家とは違って、アートが持つ力を信じる作家のお一人だと思いますが、その作品によって表現するとはどういうことかという問いをもう一度考えたいですね。

Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13
「東京大壁画」

公式サイト

※2021年5月26日時点の取材に基づいて記事を作成しております。


今、東京の銭湯がとっても熱いのをご存じでしょうか? とはいっても、お湯の温度設定が高くなったということではありません。
銭湯でアート体験ができるホットなイベントが開催されています。
この「TOKYO SENTO Festival 2020」は、古くから交流の場としても愛されてきた銭湯からアートを発信。日本を代表するアーティストとのコラボレーション等を2021年5月26日(“ゴー、風呂”の日!)からスタートしています。
「TOKYO SENTO Festival 2020」には大きく3つのお楽しみがあり、それは「銭湯アートプロジェクト」、「のれんアート」、「スタンプラリー」。「銭湯アートプロジェクト」は、日本を代表する様々な分野のアーティストが、都内4つの銭湯に作品を描き下ろしています。その中の1つ、『テルマエ・ロマエ』の作者、漫画家のヤマザキマリ氏が原画を描きおろし、銭湯絵師の田中みずき氏監修により描かれたペンキ絵をぜひ見たくて、代々木八幡駅近くの八幡湯へ行ってきました。

代々木八幡駅から徒歩すぐの八幡湯(渋谷区)。
青い看板が目印

八幡湯壁画(男湯)
壁一面に描かれたペンキ絵は見応えあり!

八幡湯壁画(女湯)

古代ギリシアのバラネイオンが
2021年の東京に出現。


代々木八幡駅近くにある八幡湯は、昭和の香り漂う昔ながらの“ザ・銭湯”という趣き。ヤマザキ氏の作品は、古代オリンピックのある日の風景が描かれたもので、バラネイオンがテーマ。バラネイオンとは紀元前五世紀ごろより古代ギリシアにあった共同温浴施設のこと。そして(私が入った)女湯の壁には、オリュンポスの山からギリシアの女神たちが地上で運動する男たちを眺めている様子が描かれていました。男湯は覗けませんでしたが(当たり前ですね!)、浴室には原画も飾ってあります。今回、ヤマザキ氏が原画を手掛け、それをもとに、全国には数人しかいない&女性で唯一の銭湯絵師の田中みずき氏が監修を行い完成させたそうです。
八幡湯の銭湯アートに触れ、他の3つの作品にもますます興味が湧き、見たい気持ちが高まりました。でも、くれぐれも気を付けたいのは、壁画アートの楽しさにのぼせても、本当にのぼせないように注意しなくては。なんといってもそこは銭湯なのですから。

(H)

ヤマザキマリ氏による八幡湯のための原画

Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13
「TOKYO SENTO Festival 2020」

公式サイト

和楽器奏者の手元アップなど、ライブ配信ならではの魅力が満載!

江戸時代の地割りが今に残る街・神楽坂。大通りから1本奥に入ると趣のある石畳の路地が現れ、風情を感じる街並みに出合える。個人的にも大好きなこの街で開催される、伝統芸能フェスティバル「神楽坂まち舞台・大江戸めぐり2021」は、今年で9回目。

今回は新型コロナウイルスの影響で、5月22日(土)、23日(日)、全てのプログラムがライブ配信となり、さまざまなジャンルの伝統芸能が、じっくりと、しかもアップで見られるという動画配信ならではの嬉しいメリットが!
現在、全てのプログラムがアーカイブ配信されているので、ぜひご覧いただきたい。

ここでは、その中から2つのプログラムをご紹介する。

【お座敷ライブ】

22日(土)12:00~13:30

創業150年の歴史を誇る神楽坂のうなぎ割烹「志満金」のお座敷からライブ配信。
着物姿の案内役は、日本語でのノリツッコミも完璧なフランス人落語パフォーマー、シリル・コピーニ氏。約90分間にわたり、江戸の芸能を堪能できる。

<出演>
岡村慎太郎+岡村愛(筝曲)×庄野文山(尺八)
本條満留ひで+本條秀英二(端唄)
神楽坂芸者衆(踊りほか)

特に興味深かったのは、未知の世界である「お座敷遊び」。戦前の神楽坂では600人ほどいた芸者衆も、今では20人だそう。ちなみに、顔が白塗りなのは “ろうそくの灯のもとでも映えるように” とのことだ。なるほど。

現役の芸者衆による唄、三味線、お囃子、踊り――と、貴重な芸を堪能した後は、お待ちかね(!?)のゲーム! お座敷では食事の合間、お酒を楽しみながら行われるそうだ。
「とらとら」(屏風越しに「とらと~らと~らとら♪」と唄いながら、体を使ったじゃんけん)、「菊の花」(1人ずつ伏せてあるお猪口を開け、菊の花が出た人が開いているお猪口の数だけ酒を注いで呑まねばならない)など、風流な遊びを垣間見ることができる。

【神遊びライブ】

23日(日)12:00~13:30

神楽坂のライブハウス「THEGLEE」から、神楽坂にゆかりのあるアーティストたちによる演奏がライブ配信。

<出演>
尺八カルテットGMQ(尺八)
セ三味ストリート(津軽三味線パフォーマンス)
真鍋尚之(笙)
遠TONE音(尺八×箏×ギター)

700年以上の歴史を持つ赤城神社の境内で行われる予定だった「神遊びライブ」。
冒頭に登場したのは、東京藝術大学邦楽科を卒業したメンバーが中心となり結成された尺八カルテット。GMQについて、メンバーによる「藝大・問題児・カルテットです!」という“つかみ”で始まった(笑)。

そこから約90分間、和楽器のイメージを覆すようなパフォーマンスが繰り広げられた。
ライブを観終わって感じたのは、和楽器の奥深さ。平安時代から日本人が奏でてきた笙、人間の歌声に近いという尺八(今はメタル尺八も!)、アクロバティックな三味線パフォーマンス……等々。
「この楽器でこの曲を!?」と、超絶技巧が奏でる現代曲に驚きの連続だ。

神楽坂のまちと伝統芸能のアーティストが一体となって開催する同フェスティバル。来年は、街の気配を感じながらリアルに鑑賞できることを願いつつ、今年は自宅でオンラインならではの楽しみ方を、ぜひ!

(K)

神楽坂まち舞台・大江戸めぐり2021

公式サイト
多様多彩に染められ、幾重にも紡がれ交差した
伝統と現代の色鮮やかなコラボレーション


5月29日(土)・30日(日)にオンライン動画配信にて開催された「伝承のたまてばこ~多摩伝統文化フェスティバル2021~」。
多摩地域の伝統文化が集結する文化・芸術のイベントで、車人形、お囃子、農村歌舞伎、影絵など多彩なプログラムが楽しめる。ここでは、「楽劇高尾山~平家美少年哀切譚」「地芝居を楽しむ!秋川歌舞伎」「SHIKISAI~染物ダンスパフォーマンス~」について紹介する。

楽劇高尾山 ~平家美少年哀切譚


まず「楽劇高尾山」は、能楽師・山中迓晶氏と高尾山薬王院住職・佐藤秀仁氏による解説から始まり、その後、山伏による法螺貝の音色と声明(しょうみょう)に導かれ本編へ。この薬王院との声明コラボレーションをはじめ、物語の鍵となる琵琶に施されたアートや、衣装デザインも地域にゆかりのある作家が手がけており、独自性と地域性の高い舞台を創造。能「経政」を軸とした本編は、体の奥底から発せられる謡いが魂の叫びを表現。経政の哀愁が気品とともに溢れ、配信終了後も余韻が残り、しばし呆然としてしまったほど。2021年8月25日(水)から8月31日(火)まで、アンコール配信(有料)の予定もありますので、ウェブサイトの情報をお見逃しなく。

地芝居を楽しむ!秋川歌舞伎


「秋川歌舞伎」は、農村歌舞伎というだけあってなんとも親しみやすい世界観。演目「仮名手本忠臣蔵七段目祇園一力茶屋の場」の所々に現代のタイムリーなネタも盛り込んであり、クスッと笑えるポイントも多い。何より少年2人による口上がハキハキとしていてとてもよかった。総じて、伝統文化を大切に引き継いでいこうという演者たちの心意気を感じた。

SHIKISAI ~染物ダンスパフォーマンス~


そして「SHIKISAI」。八王子の染織産業にフォーカスしたダンスパフォーマンスで、世界的に活躍するMAYA氏が演出。自ら工場を訪問し、職人に聞いた話や機織り機などにインスピレーションを受け、実際に組み紐をダンスに取り入れたり、機織り機の音をサンプリングに使用。オリジナルテキスタイルや衣装、糸を表現したライティングも効果的で、染織産業へのオマージュを込めつつステージを染め上げていく。ぜひアーカイブ配信でチェックを。

(H)

MAYA氏

伝承のたまてばこ
~多摩伝統文化フェスティバル2021~

公式サイト

Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13
「The Constant Gardeners」


■開催時期:2021年夏
■会場:上野恩賜公園

ここがおすすめ!

庭園づくりで長い歴史を持つイギリスからのクリエイティブ集団が、日本の禅庭園に挑む。
なんと、アスリートの動きを解析したロボットアームを使うとのこと。
テクノロジーと侘び寂の融合は、どのような感動をもたらしてくれるのか楽しみですね。(O)

Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13
「世界無形文化遺産フォーラム」


■開催日:2021年8月1日(日)
■会場:ヒューリックホール東京
※入場料無料(但し事前予約制、詳細は公式サイトにて)

ここがおすすめ!

それぞれの環境や生活の中から生まれ、受け継がれてきた歌や踊りなどの民族芸能。今回は世界五大陸でのリサーチによる貴重な無形文化遺産の紹介をはじめ、ゲストによるトークセッションも。
震災復興の願いを込めた東北三県の郷土芸能も披露されます。(O)

Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13
「パビリオン・トウキョウ2021」


■会期:2021年7月1日(木)~9月5日(日)
■会場: 新国立競技場半径約3km圏内各所

ここがおすすめ!

藤森照信氏や妹島和世氏、草間彌生氏など世界で活躍する日本の建築家6名とアーティスト2名が独自の感性でパビリオンを設計。設置場所は、新国立競技場の半径約3km圏内とのこと。東京の街がひとつの屋外ギャラリーになりますね。(O)

※2021年6月30日時点の情報です。最新の情報は各プログラムの公式サイト等でご確認ください。

編集ライターチーム紹介

OKAJIMA
映画とテクノロジーが好き。自転車で東京中を移動。走行中にフッと感じる生活風景が好きですね。夕ご飯の匂いとか。

KATO
映画などエンタメ全般、伝統工芸、ものづくりの現場が好き。直感を大切にと思う今日この頃。猫も好きで目が合うと寄ってきます。

HIGASHI
現代美術と映画、音楽が好き。最近、伝統芸能も気になってます。おいしいものとスポーツ観戦にも目がありません。